ミュウと日向の物語

【ミュウと日向の大学時代の物語】と【輝の行政書士試験に受かるまでの奮闘記】です。他の物語も書いていきます。🐈

輝のつぶやき-保険の憂うつ5

↑カテゴリー別のタイトルで、編集しました。【輝の行政書士試験】をクリックすると、ひかるの行政書士試験合格までの物語だけが、出ます。🐈







私のパジャマを着替えさせて、
「花田さんは、本当に痛みに強いですねえ。」と、お腹のガーゼを少しめくって、縫合のあとを確認しながら、ベテラン看護婦の岡さんが言う。

「そんなに、痛みに強いほうなんですか?」とお母さんが、びっくりしながら聞く。

「強いですよ。普通、夜でも痛い痛いってわめいて、痛み止めをせがみますよ。それが、花田さんの場合は、手術翌日には、ベッドに座って、おまけにお見舞いの相手までしてるんですから。しかも、今まで、痛み止めをせがみもしないし、飲みもしない。びっくりですよ。」

お母さんが、びっくりして
「お姉ちゃん、無理せんと飲んでいいのに。」と私に言う。

「でも、そんなに痛くないし、ちょっと響くけど、大したことないし。」と戸惑いながら答える。


なんとなく、体の痛みなんか、なんてことはないような気がしていた。


「ほらね、びっくりです。斉藤先生が、もう、今日からこの階の廊下で歩く練習をしていいって言っていました。よく歩いたほうが、中で癒着しないですからね。傷が大きいから、癒着しやすいんですよ。でも、無理しないでくださいよ。ほどほどにですよ。」と優しく言って、病室を出ていく。

しばらくして、朝の回診で、斉藤先生が病室に入ってきて、私の縫合と傷の様子をみる。

「回復が、早いねえ。そんなに華奢なのに。お箸より重いものなんか今まで持ったことないんじゃないのかい?」と笑いながら言う。

{そんな訳ないだろう...}と内心、異議を唱えながら、苦笑いする。

「じゃあ、また診にくるからね。」と言って、嬉しそうに病室を出ていってしまう。

私とお母さんは、あれ?と顔を見合わせる。

斉藤先生が、急いで戻ってきて、前の鈴木のおばあさんを診に行く。
先生が、出ていってからしばらくして、奥村さんが、鈴木のおばあさんに
「先生は、若い子のほうに夢中で、おばあさんは、忘れられてしまうわな。」と笑う。
おばあさんも、「ほんまに、困ったもんやわ。」と大笑いする。

奥村さんと上野先生は、神谷先生が担当医だ。

しばらくして、神谷先生がやってきて、奥村さんを診にいく。
それから、上野先生のほうへ行って、カーテンを覗いてから入っていく。

上野先生は、今日は調子が悪いみたいで、ベッドのカーテンを全部引いて、ずっと籠っている。
神谷先生は、かなり長く上野先生と話してから出ていった。

上野先生は、調子のいい日は、病院の近くのお城にまでウォーキングに行って、帰ってくるくらい元気だ。
でも、調子の悪いときは、引きこもって出てこない。


お母さん!じゃあ、私、早速、廊下を歩いてくる。
「じゃあ、お母さん、お供するわ。」と一緒に病室を出る。

ん?体が重く感じる。お腹が響くから、ちょっと前屈みになっちゃうな。
ん?ちょっとヨタつくから、
両手でバランスをとりながらと。

「お姉ちゃん、ペンギンの散歩みたいになってるけど」とお母さんが笑う。

確かに...イメージ的には、そんな感じだ。ペンペン♪ペンペン♪ペンペン♪とリズムを取りながら、歩いては休んでを繰り返した。
暇なので、結構、一日中ペンペンしていた。

おかげで、この階の看護婦さんと入院患者さんには、結構有名になってしまった。


次の日の朝、岡さんが、看護学生さんを連れて入ってきた。
「花田さん、こちら看護学生の浦野
麻衣さん。もし迷惑でなかったら、花田さんに、付き添わさせていただいて、勉強させてあげていただけませんか? 」と頭を下げる。

「よろしくお願いします!」と浦野さんが、勢いよく深くお辞儀する。

「あ、いいですよ。こちらこそ、よろしくお願いします。」と微笑む。

{そんなシステムがあるなんて、全然、知らなかったな。看護学生さんの制服って、なんか可愛くっていいな。}
なんて思っていたら、

「この病院の付属の看護学校でしてね、学校の勉強とは別に、実習って感じなんです。みんな、寮に入ってるんですよ。」と岡さんが説明して、
「じゃあ、浦野さん。早速、花田さんの体を拭いてあげてくれるかしら。」と浦野さんに、優しくタオルを渡す。

浦野さんは、岡さんの指導を真剣に聞きながら、必死に体を拭いてくれる。
そして、岡さんが私の傷を説明しながら消毒するときも、必死にメモを取っている。

メモ帳は、かわいい猫の柄で、シャーペンは、ウサギさんの柄だ。

「じゃあ、また、採血のときにお願いしますね。」と岡さんは、必死にお辞儀する浦野さんと病室を出ていく。

その日もお母さんと一通りペンペン歩きを終わらせて、1人で休んでいたら、岡さんが浦野さんとやってきた。

「花田さん、採血の時間ですよ。」
3人で、採血室に行く。

岡さんが、「じゃあ、浦野さん、採血を始めて。」と優しく促す。

私は、右手を差し出すと、浦野さんが採血の用意をする。

いざ採血をしようとして、浦野さんが緊張し始める。手が震えだす。顔色が青くなってくる。

「浦野さん、大丈夫。リラックスして。ほら、こうやって、ここにね...」と岡さんが、優しく指導する。

浦野さんの唇が、真っ青になる。

失神しそうだ...

「今日は、ここまでで、また今度にしましょう。」無理だと判断した岡さんが、続きを引き受ける。

萎れる浦野さんと2人で採血室を出る。

病室に戻る途中の休憩室に座ると、浦野さんが、必死になって勢いこんで謝る。「本当にすみません!今日に備えて、いっぱいいっぱい練習したんですけど!私、肝心なときに緊張するほうで...」とうなだれる。

「誰でも始めは、緊張するし、緊張するってことは、それほど真剣に考えてやってるってことの証拠だから。大丈夫。ほら、元気だして。」と励ます。

「ありがとうございます。」とやっと顔を上げて笑う。

「ところで、練習ってどうやってするの?」と好奇心で聞いてみると、

「あ!コンニャクとかで、注射の練習するんです。あとは、寮で、お互いの腕で練習したり。」と笑う。

{看護婦さんになるのも、なかなか大変だなぁ}としみじみ考えていると、

「花田さんは、何か心配なこととかないですか?」と真剣な顔をして訊く。

あまりに純粋で真剣な瞳に吸い込まれて、つい答えてしまう。

「多分、今回、私は子供は与えられな
いと思う。」

「え?」浦野さんが、びっくりする。

気を取り直して必死に私に説明する。
「大丈夫です。手術は成功していますし、子どもを産む機能に何の問題もありません。安心してください。」


それは、分かってるんだけど...
でも、胸の奥のほうでうっすらと、そう感じるんだ。
今回、私は、そのための体力も備えてこなかったと。
それは、本当に辛くて、とても悲しいことだけれど...


「あぁ、本当に何の心配もしなくていいんですよ。本当に大丈夫です。私、まだ看護婦の卵ですけど、確実ですから、信用してください。」と浦野さんが真剣に説得する。


浦野さんは、いい看護婦になるだろう。


そう、大丈夫。
それでも私は幸せに生きていける。そう保証してもらっていると同時に感じることが出来る。


「うん、信用するよ。」
と私は、微笑んで優しく答える。

「良かった!じゃあ、ちょっとだけ、下に行きませんか?私達の穴場で、お花がいっぱいで猫さんが見れる秘密のスポットがあるんです。」と明るく笑いながら、私を促す。

「わぁ、行きたい!」と立ち上がって、浦野さんとゆっくりと歩きだす。



そうだ。
先のことなんて、誰にも分からない。
今、このときを楽しもう。
人生は、またまだ長い。




🐈続く🐈