ミュウと日向の物語

【ミュウと日向の大学時代の物語】と【輝の行政書士試験に受かるまでの奮闘記】です。他の物語も書いていきます。🐈

輝のつぶやき-保険の憂うつ6

↑カテゴリー別のタイトルで、編集しました。【輝の行政書士試験】をクリックすると、ひかるの行政書士試験合格までの物語だけが、出ます。🐈







「おはようございます。花田さん。朝ごはんは、食べましたか?」

今日も元気に浦野さんが、病室にやってくる。

「おはよう。浦野さん。食べたけど、あんまり美味しくない。浦野さんは、朝ごはん、何食べたの?」と笑いながら聞く。

「私は、肉まんとプリンです。カロリー高いけど、美味しいんですよね。」と笑って答える。

「最高の取り合わせだね。」と私は、感心する。

{本当に最高の朝ごはんだな。私も551の豚まんが食べたくなっちゃったな ....
というか、生クリームが食べたいな....}
と頭の中で悶絶していると、

「花田さん、今日は、お腹のガーゼをもう外していいって、斉藤先生から、許可が出たんです。もう、退院も近いですからね。で、花田さんは、溶ける糸を使ったので、しばらくアフターケアが必要なんです。今日は、一緒に練習しましょう。」と紙テープを取り出す。

「紙テープ?そんなのでいいの?」
と私は、びっくりする

「医療用の紙テープなんですよ。退院したら、毎日お風呂上がりにしてくださいね。丁寧にすればするほど、傷が綺麗になりますから。」と微笑む。

「さあ、やってみましょう。まず、紙テープをこれくらいに切って、傷を横から摘まむようにして紙テープを横に貼ります。傷のところを繰り返して貼っていきましょう。」と浦野さんは、丁寧に教えてくれる。

私の傷は、おへその左上から、おへその下の真ん中に斜めにきて、さらに、おへその下からお腹の下までずっと真っすぐ続く。

距離が長いから面倒くさそうなので、
「結構、細かな作業で、時間かかりそうだね。横じゃなくて縦にピ~って貼っちゃダメなのかな?」と聞いてみる。

「駄目ですよ。傷をくっつけるように横に一つずつ丁寧に張るのが大事なんです。大変ですけど、傷が綺麗に治りますから、頑張ってくださいね。」と優しく励ましてくれる。

浦野さんに励ましてもらいながら、なんとか作業を終えて、ベッドのカーテンを開けると、鈴木のおばあさんも何か治療をしている。

「鈴木さんは、何の治療をしてるの?」と、こっそり浦野さんに聞いてみる。

「鈴木さんは、ごはんを口からもう摂りにくいんです。胃ろうの手術をされているので、今、直接、胃に栄養を入れているところです。」と教えてくれる。

「胃ろう?」と私は、不思議そうな顔をする。

「胃に直接、栄養を入れれるように、孔をつくって、そのための器具をとりつけているんです。」と浦野さんは、真剣に私に教えてくれる。


鈴木のおばあさん、そんなに、もう悪かったんだ...
それなのに、お菓子をあげたときも、あんなに喜んで、お礼まで言ってくれて...
いつも明るく大笑いしてくれてるし....

無知な自分を、猛烈に反省する。

「もしかして、奥村さんと上野先生も、あんまり良くないの?」と浦野さんに小さい声で聞く。

「あまり、今は.....」と言葉を濁す。

自分のことしか見えていなかった鈍感な自分を痛烈に反省する。


1人で反省中、お母さんが、病室にやってくる。
「お姉ちゃん、難しい顔して考え込んで、どうしたの?」と心配して聞く。

鈴木のおばあさんも奥村さんも、息子さん達が来ていて、休憩室に一緒に行っている。
上野先生も、治療に出ている。

「あ、お母さん。あのね、病室のみんなって、かなり悪いのかな?」

「あぁ、そうなのよ。結構、みんな進んでるみたいでね。上野さんは、抗がん剤治療をするかどうか、先生と相談してるみたいなんだけど、神谷先生、近々、お父さんの病院を継ぐみたいでね、この病院を出る予定なのよ。それも含めて、相談しているみたいよ。」
と熱心にいろいろ教えてくれる。

「ほら、お姉ちゃん。それより、もう、この土曜日に退院でしょう?お父さんと一緒に迎えに来るわね。本当に良かったわね。」と微笑む。

私の入院は、2週間も無いことになる。短いけど、なんか長い気がする。

退院後、さらに2週間くらい自宅療養をして、仕事に復帰する予定だ。


その夜8時くらい、私は、気分転換に、一階のほうへ散歩に出た。
病院のロビーを通って、中庭の見えるところに向かって、何か飲み物を買おうと思って、途中、自動販売機に行った。
ちょうど自動販売機でジュースを買っている女の人がいた。私と同じで、パジャマ姿に上着を引っかけている。

「花田さんですよね?どうぞ。」と自動販売機のほうへ、私を促す。

「ありがとうございます。どうして、私の名前を知っているんですか?」とびっくりして聞く。

「私達の階では、花田さんは有名ですよ。よく歩いてますしね。看護婦さんも、よく話してくれるんです。」と笑う。

{そうか。同じ階に入院している人なのか}と思いながら、飲み物を買う。

「良かったら、一緒に座って飲みません?」と言ってくれるので、中庭の見える長椅子に一緒に座る。

しばらくして、女の人が話し出す。
「私、子宮癌なんですって。それで、子宮を取り出す手術をする予定なんだけどね、卵巣を残すかどうか決めかねててね。ほら、子どもは、もう産めなくなるから、卵巣も一緒に取っといたほうが、安全なのかなとか。」って笑いながら言う。

「でも、卵巣は、子どもを産むためだけのものじゃなくって、ホルモンとか、自分の体を守るためのものでもあると思うんです。私、医学的なことは詳しくないから、きちんと言えないんですけど、そう思うんです。」と答える。

30代くらいの優しそうな女の人は、「主人に申し訳なくってね。それに、姑に嫌み言われるなあって思って。」と言って、静かに微笑む。

「ご主人は、元気に長生きしてくれるほうが、よっほど嬉しいですよ。それに、もし、嫌み言うような姑は、単なるアホだから、気にしなくていいですよ。」と必死に反論する。
「それに、卵巣が良性かどうか調べられますから、良性なら残したほうが
、私は、いいと思います。もちろん、私個人の素人の意見ですけど。」と
続ける。

女の人は、優しく微笑んで
「そうね。自暴自棄にならないで、ちゃんと考えなきゃね。」と答える。

「そうですよ。ご主人とゆっくり話したほうが、いいですよ。」とうなづきながら、私も微笑む。

そこに、別のパジャマ姿の女の人が現れて、「山下さん、やっぱりここにいた。心配したんよ。」と近づいてくる。

多分、仲のいい入院患者さんだと分かった私は、「じゃあ、私は、ここで失礼しますね。」と立ち上がる。

山下さんは、「ありがとう。」と笑いながら、手を振る。

病室に戻った私は、その夜、いろいろ考えて、なかなか眠れなかった。



今日は、退院の日だ。
お母さんとお父さんが、朝から来てくれて、ナースステーションにお礼に行ったり、お会計に行ったり、荷物を車に運んだりしてくれている。

お母さんが、「じゃあ、お姉ちゃん、行こうか。」と私を促す。

上野先生は、朝からカーテンをひいて、ずっと引きこもっている。

私が、気にして見ていると、お母さんが、「上野先生は、退院出来ないから、泣いているのよ。そっとしておいてあげましょうね。」と小さい声で、教えてくれる。

私は、奥村さんと鈴木のおばあさんに
「お世話になりました。本当にいろいろ優しくしていただいてありがとうございました。」とお辞儀する。

鈴木のおばあさんが、「花田さんがいてくれて、病室が華やいで楽しかったわ。もう二度と、こんなところに戻ってきたらあかんよ。」と笑う。

奥村さんが、「ほんまや。花田さんに、ここは、似合わへんわな。元気で頑張るんやで。」と笑ってくれる。

私は、無言で深くお辞儀する。

そして、命の重みを噛み締めながら、
病室を出ていく。



あれから随分、月日が経って、いろんなことが、変わっていった。

私の一番目の会社、クィーン化学株式会社は、もう存在しない。
お父さんも、もういない。
あの後、三年後に肺がんで永眠した。


私は、今、四番目の会社、株式会社ハレルヤにいる。
この会社に入った頃から、生理痛がひどくなり、生理不順っぽくなってきた。
それに、年一回の経過観察を大病院で、ずっと続けていたのだが、急に、有給休暇を病院に行くのに使うのをもったいなく思い始めた私は、会社帰りに行ける病院を探し始めた。
なかなか7時まで開いている病院は無かったが、一つだけ見つかった。
ここなら、会社帰りに寄れると思って、病院を変えた。
ここの先生は、慎重で年一回の経過観察を半年に一回に変えた。
さらに、生理による不調を聞いた先生は、ホルモン療法で、月一回、私に薬をくれるようになった。
三週間、朝一粒飲んで、一週間飲むのを止める薬だ。
この薬を飲んでから、すべての不快から、私は解放されることになった。


今日は、この病院に寄る日だ。

「花田さん、お入りください。」看護師さんが呼ぶ。

「はい。」と診察室に入る。

「やあ、調子は、どうだい?」と、先生が優しく笑いながら尋ねる。

「はい。大丈夫です。調子いいです。」と私は、満面の笑顔で答える。

「今日も元気そうだね。また、いつもの薬を出しとくね。」と先生も、満面の笑顔で答える。

「はい。神谷先生。」
と私は微笑む。

あのときの神谷先生が、今の私の主治医だ。


人生は、いろいろな課題を与えるけれど、こっそり、ところどころに助っ人やアイテムを置いていってくれる。

今の株式会社ハレルヤの西山所長の誕生日は、私のお父さんの命日と同じ、12月13日だ。


人生は、たまに私に、おまけをくれる。