ミュウと日向の物語

【ミュウと日向の大学時代の物語】と【輝の行政書士試験に受かるまでの奮闘記】です。他の物語も書いていきます。🐈

輝の会社の人 -キツツキさん4

↑カテゴリー別のタイトルで、編集しました。【輝の4番目の会社のこと】をクリックすると、4番目の会社の話だけが、出ます。🐈





いつも通り、営業所で仕事をして、一段落して、3時のコーヒーでも頂こうと思っているときに、佐久間さんが、若い子を連れて、突然やってきた。

{おお!シンデレラ王子のお出ましだ。}


「やあ、花田さん、近くまで営業に来たから寄ったわ。こいつ、開発営業の新人の木村。」

「はじめまして、木村です。」と新人さんは、オドオドして言う。

「ああ、やっぱ、ここは落ちつくわ。」
と、ドカッと、前の自分の席に座る。

「木村、例の資料、パソコン借りて出しといて。」と新人さんに指示する。

私は、営業所のディスクトップを立ち上げて、「これ、使ってくれていいから。」と案内する。

「佐久間さん、会社には、いつまで、いるんです?」と聞く。

「まだ、3ヶ月は、いてるわ。」

{まずい。結婚祝いを早く渡しすぎたか。マナー違反というものだろうか?}
と、1人悩んでいると、

「開発営業部長の太田に騙されたわ。あいつは、とんだタヌキやわ。」

「え?」と私は、驚いて佐久間さんを見る。新人さんも、びっくりしている。

「佐久間君には、期待してるからとか言って、開発に異動させといて、さんざんこき使って、とんだ部署やったわ。」と息巻く。

新人さんは、青ざめている。

「ほら、佐久間さん優秀だから。何でも出来るから、つい太田部長、甘えすぎたんじゃないですか?」と宥める。

「はん。違うわ!」と収まらない。

「おい、木村。いつまで、かかってるんや。早く出せよ。」と八つ当たりする。

新人さんが、「それが、その、その資料を出すには、部長の了解がいるルールになってまして、その後で、了解ボタンを押して出すことになってまして....」と、オドオド言う。

「は?そんなん言うてたら、いつまでも、仕事終われへんやんか。アホか!」

「は?そんなことしてたら、仕事、何も出来なくなるわ。何してんの。」

佐久間さんと私は、同時に言う。

「ルールは、ただの原則や。早く出せ。」

「そうよ。何、アホみたいなルールに従ってんのよ。」

「はい。」と新人さんは、慌てて、資料を出す。

結局、私の仕事の基本は、佐久間さん仕込みなのだ。


佐久間さんは、新人さんから、資料を受け取りながら、

「なあ、花田さん、俺な、体壊して、入院したんや。」とポツリと言う。

「え?すみません。私、全然知らなくて」と、言いかける私を遮って、

「つまりや。俺は、体力的にも、もう限界や。分かるやろう?このまま、この会社に居てても、もう先はない。見えてるわ。ギブアップや。」と静かに笑う。

続けて、「なあ、木村、お前は、大丈夫なんか?こんなとこに入ってよ。」と、新人さんをからかう。

新人さんは、慌てふためいている。

「花田さんは、どうなんや?」と優しく、私に聞く。

「私は、まだまだ体力が、いける気がします。やっていける気がします。」と、佐久間さんを見つめながら、答える。

佐久間さんは、ふっと優しく笑って、
「そうやな。花田さんなら、この会社で、やっていけるやろうな。」と言う。

「佐久間さん、うちの会社のお得意先の会社の社長になるんだから、うちの社長に偉そうに言えるようになるんじゃ、ないですか?」と、私は励ます。

「は~ん。何、言ってんのや。あの社長が、そんなん許すわけないやろう。」
と、愉快そうに笑う。

「まあ、会社を大きくして、この営業所の近くにも支店出して、ようさん、買ったるわ。」と笑う。

「楽しみに待ってます。」と私も笑う。


「じゃあ、そろそろ行くわ。」と立ち上がって、玄関に向かう。
新人さんが、慌てて付いていく。

私も、玄関に一緒にいく。

「じゃあ、またな。」と優しく笑う。

「はい。またですね。」と私も微笑む。


それから、3ヶ月して、佐久間さんは、会社を辞めていった。


しばらくして、西山所長から、佐久間さんに、双子の娘さんが産まれて、菱形商事の社長になったと聞いた。

{ほら、やっぱり、シンデレラ王子だ。}

西山所長は、「佐久間も大変や。菱形商事の親父さんが会長になって、目を光らせてると言っても、社長ってもんは、大変な仕事や。」と、相変わらず心配で、ブツブツ言う。

私は、「佐久間さんなら、大丈夫ですよ。」と、聞き流す。


それから、月日は、流れた。
米山本部長は、今は、相談役顧問となり、月に何回かだけ、本社に出社している。

今日は、久しぶりに、営業所に訪れた。

「やあ、花田さん、おはよう。元気にやってるか?これ、今日は、苺のパイや。」と私にお土産を手渡す。

「いつも、ありがとうございます。はい、元気です。」と私は、微笑む。

私は、いつものように、顧問と所長に、コーヒーを入れて、自分の席に座る。


今日は、みんなで、コロナウイルスの話しばかりしている。

顧問が、営業所に掛かっているカレンダーをふと見て、残念そうに、「しばらく、こういう所には、行けないな。」と嘆く。

世界遺産のカレンダーで、今月は、オランダの風車群の写真が載っている。

「そうですね。オランダには、行きたいですけど、今は無理ですね。」と答える。

所長が、「ヨーロッパは、今は、まずいでしょう?顧問なんか、イチコロでっせ。」と言って、更にマイナス思考な発言を続ける。

顧問は、だいぶ前に、手術をなさって、持病を抱えておられる。


「花田さん、佐久間君が、頭を抱え込んでるんや。」と顧問が、突然、私に救いを求めるように言う。

「え?佐久間さん、何かあったんですか?」と、心配して聞く。

「そうやない。コロナの影響や。」

「コロナ?何か影響あるんですか?」と、びっくりして聞く。

「ほら、佐久間君の会社は、厨房関係の機器を卸してるやろう。今、コロナで、居酒屋や飲食関係が、こんな状況なんでな。仕入れたもんが、出んのや。」と難しい顔をして言う。

{仕入れって。しばらく、仕入れを控えといたらいいんじゃないのかな?}

所長が、「ほら、社長になると大変なんや。」と、またブツブツ続ける。

顧問が、ずっと難しい顔をして、聞いている。

{わざわざ、顧問は、そのことを言うために、こんな時期に営業所まで来たのだろうか。かなり、逼迫してるということなんだろうか。}と心配になる。

{でも、私には、どうすることも出来ない。}

顧問が、所長の話しを一通り聞いて、
「じゃあ、そろそろ帰るわ。」と、
立ち上がる。

「花田さん、それじゃあ、また落ち着いた頃に、来るわ。そのときは、ゆっくり旅行の話しを聞いてくれ。」
と、言って笑いながら、出ていく。

私は、「はい。」と微笑んで見送る。


佐久間さんのことが、気になる。

でも、もう立派な社長だし、双子の父だ。守るべきものが、いっぱいある。
きっと大丈夫。
きっと乗り越えられる。

私が、この営業所で、まだ、こうやって居れてるんだもの。
師匠なら、大丈夫。

きっと、乗り越えて、もっと会社を大きくして、近くに支店を作って、
「やあ、花田さん。儲かって困るわ。」って笑いながら、やってくる。

きっと、ハッピーエンドだ。
シンデレラ王子なんだから。