ミュウと日向の物語

【ミュウと日向の大学時代の物語】と【輝の行政書士試験に受かるまでの奮闘記】です。他の物語も書いていきます。🐈

輝の会社の社長9

↑カテゴリー別のタイトルで、編集しています。【輝の4番目の会社のこと】をクリックすると、4番目の会社の話しだけが、見れます。🐈


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コロナウイルスの売上の影響などが、気になり、現場の生の声を聞きたいと思われた社長は、各部門のそれぞれの管理者と、オンラインで、一対一で、話されたいとおっしゃったらしい。

それぞれのスケジュールを調整して、予定が組まれた。

うちの営業所の管理責任者の西山所長とのオンライン面談は、5月27日の13時半~14時だった。

13時くらいから、西山所長は、iPadの準備をして、待機していた。
朝から、ずっと、ソワソワしていた。

分からないでもない。
西山所長は、63歳だ。

うちの会社は、60歳で定年で、一旦、退職となる。
それ以後は、嘱託で、一年ごとの契約更新という形になる。

西山所長も、そういうことになっていて、後二年なので、そろそろ後継の所長の話が、そこらじゅうで噂されている。

65歳までとはいえ、コロナウイルスのような緊急事態が出てきたので、いつ、契約が終わりになってもおかしくないと、怯えているのだ。

西山所長の同期で仲の良い小山本部長も、同じ歳なので、最近、同じ心境のようだ。

よく営業所に来て、旅行の話や料理の話をなさっていた米山相談役顧問も、この6月26日に引退なさる。

コロナウイルスの件で、身を引く決心をなさったらしい。

6月22日に、こちらにいらっしゃるらしいので、お餞別に、地元職人作の檜の夫婦箸を渡そうと用意している。


私には内密に、冬野本部長が、西山所長のスマホに電話をかけて、何かを話しているらしい。

冬野本部長は、私の所属する部門の本部長で、関西エリアは小山本部長、関東エリアは冬野本部長の管轄になる。

冬野本部長は、みんなから鬼軍曹と呼ばれて怖がられているらしい。

でも、2ヶ月誕生日会で、鍋奉行をしてくださり、こまごまとよそってくださったりして、至れり尽くせり面倒をみてもらった私には、繊細な人に見えていた。


大まかには、冬野本部長から
「次の所長は、用意しているので、あと一年頑張ってください。」みたいなことを言われているようだった。

西山所長は、次の所長なんていないと思って、本気にしていない感じだ。

そうなると、この営業所は、無くなるのかもしれない。
でも、形有るものは、いつかは無くなるものだ。
また、新しいものが始まる。

そう考えて、 私は、あまり気にしていなかった。

でも、ゴールデンウィークを開けたころ、仕入先の仲の良い松本さんに、電話で聞かれた。

「ねえ、もう、福山さん来てるん?新しい所長なんやろう?」と。

「え?福山さん?今、関東にいてる営業さん?知らなかったな。そうなんだ。」と、私は、びっくりする。

「え!花田さん、何にも聞かされてないん?いや、ごめん。聞かなかったことにしてな。」と、松本さんは、慌てていた。

{あれは、真実なのだろうか?ただの、デマの噂なのだろうか?}


とりあえず、13時15分になって、西山所長は、iPadを持って、応接室に入って行った。

私は、気にせずに仕事をしていた。

13時50分くらいに、応接室のドアが開いて、西山所長が出てきて、
「はなちゃん、社長が、お呼びや。」と、私を応接室に促す。

何となく私をお呼びになると感じていた私は、一応、机に用意して置いていたマスクをつけて、応接室に急ぐ。

応接室のテーブルに置かれているiPadを覗くと、社長が映っている。

久しぶりの社長のお姿に嬉しくなって、

「社長、お久しぶりです。マスクを支給いただき、ありがとうございます。」と、笑顔で両手をパタパタ振りながら、元気に挨拶する。

「おお、花田さん、元気そうですね。やっぱり、こうやって、みんなと会えるのは、いいものですね。」と、笑顔で、お答えになる。

「お母さまは、お元気ですか?マスクをもっと早くお届けしようと思っていたのですが、なかなか遅くなって、ゴールデンウィーク明けになってしまいました。」と、社長は、すまなさそうに言われる。

3月くらいに、社長は、全社員に電子回覧板で、{マスク60枚を全社員に無償で、支給する。同居の家族にも、希望者には、三千円で60枚送付する。}と、回覧していた。

なかなか、その頃マスクが手に入らなかった私は、母の分を頼んで、社長に、{母が助かります。ありがとうございます。}と社内メールしたのだ。

社長は、すぐに、社内メールで、
{家族の分は、有償になりますよ。基本的に、通勤と会社で働いているときに使うものですよ。}と、返信をくれた。

私は、すぐに{もちろんです。お気遣いいただき、ありがとうございます。}と、返信した。

本当のところ、自分の分も全部、お母さんに渡して使ってもらうつもりだった。


その後、社長は、思い直されたようで、また、全社員に、電子回覧板で、
{同居でなくても、家族の分を頼んでもよい。}と回覧されたのだった。


「はい、おかげさまで。母は、調子が、いいんです。ありがとうございます。」と、私は元気に笑顔で答える。

「今は、マスクの値段が下がってしまって。」と、社長が申し訳なさそうに言われるので、

「そんなものです。」と私は、笑う。

社長が、伏し目がちに、少し黙られたので、

{あれ?気持ちが、ありがたいんですからと付け加えたほうが、いいかな?}と、思案していると、

「私は、全社員を辞めさせることなく、頑張っているつもりです。誰一人、辞めさせることのないように。」と、思い詰めたように、おっしゃる。

{ん?何か、誰かの不満でも、社長のお耳に入ったか?}

コロナウイルスの対策として、会社は、一部をテレワークや時短、あとのほとんどを週35時間勤務にしたらしい。

私を含め、地方の営業所は、通常勤務をしている。
だから、あまり勤務内容が分かっていないのだが、一部で不満があるらしかった。

でも、こんな事態に、普通にお給料が、もらえるだけでも、私は、ありがたいと思っていた。

「社長、もちろんです。全て、社長のおかげです。本当に、ありがとうございます。」と、笑顔で元気よく励ます。

社長は、満面の笑顔で、
「いや、そんな。」と、おっしゃる。

「いやぁ、花田さんは、本当に元気ですね。花田さんの営業所が先頭を気って、盛り上げていってくださいよ。」と、笑顔で続けておっしゃるので、

「はい!頑張ります。ありがとうございます。」と、エイエイオーと拳を挙げんばかりの勢いで、言う。

社長は、大笑いなさる。

西山所長が、一向に会話が終わりそうにないので、iPadの後ろから私に、
{そろそろ替われ。}と、ジェスチャーする。

「それでは、社長。所長に替わりますね。」と、笑顔で挨拶して、所長に替わって、応接室を出る。

しばらくして、応接室から出てきた西山所長に「はなちゃんは、上手いわ。」と、笑いながら言われる。

{別にそんなつもりは、ないのだが...}

翌日の朝、社長から全社員に、電子回覧板が回された。

{わが社は、去年の12月に、関東と関西の本店のある市に、500万円ずつの寄付をしている。これも、みんなが頑張って働いてくれた結果だ。自負してほしい。これからも、社会貢献が出来るよえに、さらにがんばっていってほしい。}と。

私は、嬉しくなって、すぐに回覧にコメントを入れる。

{もっと社会貢献出来ますよう、もっと、仕事を頑張ります。}と。