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まだ、洗ってあげられないミル
なかなか毛が生えないミル
その日の夜は、心配で、ほとんど眠れなかった。
夜が明けて、朝早く、部屋のドアを開けて階段下のミシン台を見る。
ミシン台の上の帽子の中に、ミルが丸まって、眠っている。
ミシン台の上に窓があるので、朝日がミルに当たっている。
起こさないように、ゆっくり階段を降りると、すぐに気付いて、ミーミー鳴く。
優しく撫でてあげながら、猫用トイレを見る。
ん?トイレは、使っていないのかな?
{はっ!猫用ベッドにしてらっしゃる! ん?あれ、下痢してるな。大丈夫かな....まあ、ベッドの上のタオルを取ったらいけそうだし、早く、裏のゴミ箱に捨てて、見つからないようにしよう。}と、片付けようとしたとき、
後ろの応接間のドアが、開いた。
{まずい。}
ゆっくり、後ろを振り向くと、お母さんが、近寄ってくる。
「トイレ間違えたみたいだね。」と、明るく言うと、
「ミル!なんで!」とお母さんが、言いかけるのを止めて、
「失敗したときに言わないと、何で怒られてるのか、分からないらしいよ。それより、下痢してるんだけど、大丈夫かな?」と話を変える。
「あら、ほんとね。食べ過ぎたのかしら。でも、小さすぎるし、食べないとね。」と、心配そうに言う。
ほんとに小さすぎる。2ヶ月くらいだと思うんだけど。足とシッポは長いけど、細すぎる。顔も小さすぎるから、耳が大きく見える。
ミルが、大きい声で、ミーミー鳴くので、また、離乳食をあげる。
「半分にして、また、後でね。」
ミルは、嬉しそうにガツガツ食べる。
その間にベッドのタオルを取り替えてあげる。
お母さんは、朝、ずっとトイレのしつけで、ミルに張り付いている。
「お母さん、今日は、朝早く連れていこう。」と私は、病院へ行く用意をする。
今日は、手前の診察室で、若い男の先生が担当医だ。
先生は、ミルを優しく拭いてあげながら、いろいろ診てくれている
「先生、下痢してるんですけど。」と
心配して聞くと、
「下痢しても、いっぱい食べているほうが、いいですよ。」と、
優しく答えて、先生が注射をしようとしたとき、ミルが噛みにいきそうになったので、私は、慌てて優しくミルの体を押さえて、「ダメよ。がまん。がまん。」と、優しく諫める。
ミルは、ウ~と我慢する。
先生が、「元気そうに見えるけど、まだ、高熱で、熱が下がっていないし、かなり弱っているので、気をつけて見ていてあげて下さいね。容体が急変したら、すぐに連れてきてください。」と言って、点滴をしてくれる。
横を見ると、お母さんが、ちょっと反省している。
「では、また明日も来てください。」
しばらく、通院は続きそうだ。
今日は、私がお会計をした。
長引きそうだから、半分こにしようと、私が提案したからだ。
ミルは、すぐにお腹をすかせる。
その都度あげるけれど、やっぱり、下痢をしてしまう。
晩ごはんのとき、ミルが応接間に入ってきて、テーブルからお母さんの菜っ葉を素早く咥えて、逃げる。
「ミル、口から離しなさい。そんなもね食べちゃダメ。」とお母さんが、捕まえようとすると、
ウ~ウ~と唸って攻撃体勢に入る。
野生そのものだ。
お母さんとミルは、格闘し続けている。
よっぽど家に入るまで餓えていたのだろう。食べるものがあれば、そのとき全部食べないと死んでしまう、いつ、また食べ物に、ありつけるか分からないという感覚だ。必死だ。
小さいから、食べるものに、よっぽど困っていたのだろう。
それに、小さいから、攻撃は噛むことでしか、防御出来なかったのだろう。
それからしばらくの間、お母さんは、ドアを閉めて、ミルに隠れるようにして、御飯を食べなくてはいけないようになる。
お母さんへの噛み癖も、なかなか直らない。
トイレもなかなか覚えられない。
{でも、なんで、ミルは、私には噛まないんだろう? }
まあ、ミルとお母さんは、なんやかんやで、バタバタと2人で楽しそうだ。
本当は、仲がいいのだろう。
次の日は、副院長先生が診てくれた。
副院長先生は、さすがで、下痢の相談をすると、
「まずは、これを1日食べさせて、下痢を止めてから、美味しいのをあげましょうか。」と笑いながら、特別な猫用の半生の食べ物をくれた。
「一回の量は、袋の1/3で、スプーンで細かく潰してから、1日に3回あげてください。」と詳しく説明してくれる。
「先生、ミルに、虫の注射とかは?」と、私が、また聞くと、
「もっと回復してからね。」と優しく答える。
副院長先生は、本当にさすがだった。
1日で、ミルの下痢が治った。
ただ、それからミルは、食べては吐いて、食べては吐いてを繰り返すようになった。
高級な栄養の高い離乳食を買って与えるけれど、体重が増えない。
病院に、点滴をしに、通院する日が続いた。
お母さんも、吐いては拭いて、吐いては拭いてを、私と一緒に繰り返した。
「毛が生えないし、体重は、増えないけど大丈夫よね。」と心配そうに聞く。
私は、「そんな猫なのかな。コーヒーカップに入る大きさの毛が生えない、実は血統書付きの猫だったとか。」と馬鹿みたいなことを言う。
しばらく、この状況が続いた。
ミルは、生命力に溢れていて、吐いても吐いても、元気に食べ続けた。
生きたいという意思が、強かった。
ある日の夜、また、ミルが吐いて、急に落ち込んだ。
私も同時に、急に察知した。
{タイムリミットだ。}
2人で肩を落として、うなだれる。
お母さんが、「どうしたの?2人で、そんなに萎れたら、お母さん、心配になるわ。」と言って慌てる。
{ダメだ。ミルの体力の限界が来てい る。ミルは、賢い。ミルも分かっている。ダメだ。このままだと、ミルは、助からない。}
2人で、うなだれ続ける。
{助からないなら、なんで、わざわざ、私にこの子を与えたんだろう。ひどい仕打ちだ。}と急に悲しくなる。
ふっと、急に思い出した。
{待てよ。この6月に、私の会社のすぐ近くに新しい動物病院が開業していたな。こんな目立たない場所で開業して、大丈夫なのかなって会社の行き帰りに心配してたんだっけ。}
かばんから携帯を取り出して、ネットで、調べる。
休業日が、木曜の午前だけで、あとは、ずっと年がら年中、診察している。おまけに夜間救急対応まである良心的な病院だ。
先生は、大阪府大出身の2人か。それぞれ、他の病院で長く修行を積んでいて、経験も豊富そうだ。
うん、優秀そうだし、新しい医療の知識も提供してくれそうだ。
明日は、土曜日だ。
ここに、ミルを連れていこう。
「お母さん、病院を変えるわ。このまま、今の病院で、点滴の治療を続けていたら、もう間に合わなくなる。明日、連れていくから。」
お母さんが、「え!」と唖然とする。
ミルと、顔を見合わせて、
{ミル、ここに賭けよう。}
{ええ。}
と無言で了解しあう。
🐈続く🐈