ミュウと日向の物語

【ミュウと日向の大学時代の物語】と【輝の行政書士試験に受かるまでの奮闘記】です。他の物語も書いていきます。🐈

輝の研究のお仕事2

↑カテゴリー別のタイトルで、編集しています。【輝の1番目の会社のこと】【輝とミュウのこと】【日向とミュウ】をクリックすると、1番目の会社の話し、ミュウの話しだけが、それぞれ見れます。🐈


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おなかを舐めるミュウ



1番目の会社、クイーン化学株式会社の内定が決まるまで、私は、バタバタしていた。

就職氷河期で、就職活動が難航していたのも、もちろんあるが、もう1つ、重大な問題があった。


意を決して、私は、下宿先から、家に電話をかける。

「あっ、お母さん!私!輝なんだけど。」と緊張しながら、話しを始める。

「あっ、輝。おめでとう。就職決まって、良かったわね。もうすぐ、卒業ね。家から通うことになるのね。」と、お母さんが、ご機嫌で答える。

「あっ、そうなの。家に戻ることになるんだけどね、その、少し、あの...」

なかなか、私は、言い出せない。
心臓が、バクバク鼓動を立てる。

{いや!言わねばならぬ。頑張れ、わたし。}

「お母さん、紹介したいものが、あって、卒業前に会わせたいんだけど。」
一気に意を決して、吐き出す。

「まあ、そうなの?ちょっと待ってね。」と、受話器を置いて、お母さんは、慌てて、お父さんに何か話しに行ったようだ。

{お父さん!輝が、紹介したい人がいるって!}と言っている声が、聞こえてくる。

しばらくしてから、お母さんが、電話に戻ってくる。

「それで、輝。どんな人なの?」と、お母さんが、落ち着いた声で聞いてくる。

「いや、人じゃなくて、猫なんだけど。」と、私は、オドオドしながら話す。

「猫!!」と、お母さんは、絶句する。

{お父さん!猫だったわ。}と、しばらく、お母さんは、お父さんに説明しているようだ。

それから、少し落ち着いてから、お母さんは、笑って話し出す。

「輝、お母さんは、前からおかしいと思っていたわ。電話をかけたら、いつも、猫の声が聞こえるし、たまに帰ってきたら、あなた、腕や足に、引っ掻き傷みたいなものがあるしね。」と。

「で、いつからなの?」と、
聞かれるので、

「4年生になる前の3月..まだ、一年になってない。もうすぐ、一年になるかなって感じ。」と、答える。

※【ふてくされた子猫との出会い1、2】をお読みください。



「それで、この子を連れて帰りたいんだけど、家に置いてもらえるかな?」と緊張しながら、私は、お願いする。

私は、この子<ミュウ>が、いたので、就職先を地元で探していた。

就職氷河期で、ただでさえ難関の就職。特に女性は、門前払いが、多かった。

それでも、ミュウが、困らないように。
私が働きに行っても、面倒みてくれる人が、家にいるように。
ミュウが、寂しがらないように。
地元の数少ない会社の中から選んで、就職活動をしていた。

私は、小さい頃、喘息気味で、体も弱かった。
それで、私は、ずっと、ペットを飼うことを禁止されていた。
動物の毛で、咳をするからとも言われていた。
それくらい、両親を心配させていたのだ。

だから、ミュウは、私が初めて飼えた生き物だった。
まあ、家の人には黙って、こっそり、飼っていたのだが...

私にとっては、ミュウは、ペットというより親友、いや、なくてはならない存在だった。

お母さんは、半分呆れて、
「そんなに?一年近くも、こっそり飼っていたの?そんなに長く飼っていたんだったら、今さら、ダメとは言えないでしょう。」と、答えてくれる。

「本当に!いいの!お母さん、ありがとう!あのね、とても賢い、いい子なの。」と、私は、喜びを隠せず、満面の笑顔で話し始める。

ミュウを家に連れて帰ることを許可された私は、嬉しくて、一気に舞い上がった。
傍で、心配そうに私を見つめていたミュウに、
「ミュウ。一緒に家に帰れるよ。」と、優しく言って、ミュウの鼻筋を撫でて、安心させてあげる。

もし、ダメだと言われたら、ペットOKのアパートを探さないといけないと思っていたので、本当に嬉しかった。

お母さんには、卒業前に、ミュウの顔を見せに、一度、帰ることを約束した。

私は、卒業に必要な単位は、既に取っていたし、卒業論文に必要な実験を3つも終わらせて、完成させていた。
あとは、卒論発表会に必要な資料を揃えて、教授のOKをもらうだけだった。


それで、一週間くらい、ミュウの顔見せに、家に帰ることになった。

ただ、家に帰るのは、一苦労だ。
まず、電車で1時間、新幹線で1時間、さらに電車で2時間、乗り継ぎが上手くいって、短く見積もっても、これぐらいの時間が、かかる。

ミュウの食べもの、お水、タオル、必要なプラスチック容器をカバンに入れて、
いつもの赤いプラスチックのミュウのキャリーバッグに、タオルを敷いて、小さいトイレ用の容器を入れて、万端の準備をする。

{大丈夫かな?長いし、心配だな。}
かなりの不安を抱きながら、最終のチェックをする。

「ミュウ、長い移動になっちゃうけど、我慢してね。」と、優しく言って撫でながら、ミュウをキャリーバッグに優しく入れる。

ミュウの入ったキャリーバッグ、ミュウの荷物に、私の荷物、それに手土産。
かなり、重い...

移動中、ずっと持っているのは、辛いが、キャリーバッグを下に置くと、ミュウが、不安がって、{ミャア、ミャア}鳴くので、キャリーバッグは、あまり、下に置けなかった。

なんとか新幹線まで来て、乗車券を買っていると、ミュウには、手荷物料金を別途払って乗せなければならないことを、初めて知った。

ミュウは、首輪にリードをつけていたので、新幹線に乗ってしばらくしてから、キャリーバッグから出してあげると、私の足元の座席の下に入って、大人しく隠れていた。

無我夢中で、旅の行程を急ぐ。
旅を楽しんでいる余裕は、全くない。
次の電車で一時間半、キャリーバッグを抱えて座って、やり過ごす。

途中、乗り継ぎのときに、カリカリと水をあげても、ミュウは、全く口をつけなかった。
トイレもすすめるのだが、全くしなかった。
長時間なのに大丈夫なのか、心配だったが、ミュウも、かなり、緊張しているようだった。


やっと、最後の電車だ。
田舎の電車だから、乗客が、ほとんどいない。
客が、周りにいないことを見計らって、ミュウをキャリーバッグから出してあげる。
ミュウは、喜んで、長椅子の座席に2本足で立って、前足を窓枠に置いて、小さな子供みたいに、窓から見える風景に見入る。
嬉しそうな顔をして、ずっと窓から外を見続ける。
風景が、気に入ったようだ。
私も、ミュウと一緒に窓から、流れる風景を見る。
幸せなひとときだ。


家の最寄りの駅にやっと到着した。
キャリーバッグに入ったミュウと、重たい荷物を持って、約15分の家への道を急いで歩く。

かなり、疲れてきているので、重さも倍増して感じる。
なんとか、気力で足を進めていき、やっと、家の前に着いた。

「さあ、ミュウ、ご対面よ。」

深呼吸して、私は、玄関のドアを開く。



🐈続く🐈