ミュウと日向の物語

【ミュウと日向の大学時代の物語】と【輝の行政書士試験に受かるまでの奮闘記】です。他の物語も書いていきます。🐈

輝の迷走7~輝の4番目の会社

↑カテゴリー別にまとめています。例えば、【輝とミルのこと】をクリックすると、ミルの話しだけが見れます。お好きな話しだけを見てくださいね。😺🍀


f:id:myuutohinata:20210907134425j:plain

↑幸せそうに眠るミル💞


家を飛び出して、必死にミルの居そうな場所を探す。

ミルは、家の塀から出て行ったことはない。

唯一、前に一度、家を出たときは、塀の内側をチョロチョロ逃げて、私の車の下で捕まらないように端から端に逃げまくっていただけだ。

車の下、庭のすみ、家の裏の隠れそうな場所、念入りに隅々まで探しまくる。

何周も何周も見て回る。

{いない..ていうか、ミルの気配を感じない。}

私は、死にそうな気分になる。

{やっぱり、家の中か?}

私は、急いで家に入って、
「お母さん、ミルは?」と聞く。

「いないけど、多分、家のどこかに隠れてるわよ。」
お母さんは、のんびり答える。

私は、
「ミル!ミル!」
と、大きな声で呼びながら、
家の中を隅々、探しまくる。

いつも、ミルが隠れているところ、見逃しそうなところをくまなく見てまわる。

自分の部屋を探しに行くと、下書きの履歴書が目に入った。

{こんなもの!履歴書なんかに気を取られていたから!}

忌々しい履歴書を、ゴミ箱に捨ててしまいたくなる。

{そんなことしてる場合じゃない。探さなきゃ。}

私は、必死にそこらじゅうを見てまわる。

{いない。いるなら、呼べば、いつも、出てきてくれるのに..}

「お姉ちゃん、歯医者に行きたいんだけど。」
お母さんが、私に言う。

「明日でも、いいじゃない。夜も開いてるんだし。」

そう、この歯医者さんは、年中無休で夜10時までしてくれている、働く者の味方の素敵な歯医者さんだ。

「でも、歯が痛い。」
お母さんが、泣きそうな顔で、頬をおさえながら訴える。

「でも、ミルが外に出てるなら、時間勝負なのよ!」
私は、怒って言う。

「でも、痛い。」
お母さんは、引かない。

「じゃあ、タクシーで行って!タクシー、呼べるでしょう!」
私は、イライラして、言い捨てる。

「そうね。そうするわ。」
お母さんは、その手があったわって納得した様子で、以前、使ったタクシーの名刺を探しに行く。

「じゃあ、歯医者が終わったら電話して、私は、ミルを探してるから。」
私は、ミルを探しに家から出て、近辺を探しに行く。

溝の中や、隣の家の隙間、
「ミル!ミル!」と呼びながら、ゆっくり歩きながら、探していく。

汗だくになりながら、近所を一回りしていく。

その間、いろんな思いが頭に浮かぶ。


どうして、こんなことに?

私が、履歴書に夢中になっていたから?

お母さんとの会話の内容を理解していたの?
また、捨てられるとでも思ったの?

私は、そもそも、なんで転職したかったんだっけと考える。

そう、今まで、助けられてばかりいたから、今度は、助ける側にまわりたかったから。

残りの人生を、人のために使いたいと思ったからだ。

{.....}

いや、人のための前に、ミルを助けられないなら、意味ないじゃない!

私は、深くため息をつく。

汗びっしょりになったTシャツを、とりあえず着替えて、もう一度探そう。

家にトボドボ戻ると、お母さんが、ちょうどタクシーに乗って出ていくところだった。

「ミルは?」お母さんに聞くと、

「見ないわ。」

「そう。行ってらっしゃい。」
私は、力なく答えて、お母さんを見送る。

家に入り、汗を拭いてTシャツを着替えて、応接間の入り口で佇む。

{こんなことで、ミルが、いなくなるなんて..}

転職と引き換えにミルを?

とんでもないわ。
ミルのほうが、大切に決まっている。

比べる価値もないわ。

私は、絶望にうちひしがれて、うなだれて佇んだままだ。


背後から、小さな声がする。

「にゃ..」

慌てて振り向くと、足もとにミルが座って、私を見上げている。

「ミル!どこにいたの?」

私は、しゃがみこんで、ミルを撫でまくる。

「良かった。心配したよ。良かった。」

ミルは、満足そうに、ゴロゴロと喉を鳴らす。

私は、安堵で力が抜ける。

本当に良かった。

ミルは、満足そうに私に甘え続けている。


その後、お母さんに電話して歯医者で合流した私たちは、一緒にお昼にお蕎麦を食べに行った。

母が、ざる蕎麦定食、私が、ミニ天蕎麦セット。

安堵した私は、ゆっくりと味わいながら食べる。

「ミルは、出ていってないと思ってたわ。」
お母さんは、笑いながら言う。

「でも、万が一ってことがあるじゃない。」私は、反論する。

「必死な顔してたものね。ミルも、さぞ満足でしょうよ。」
お母さんは、微笑む。

確かに、ミルは、かなり満足したようだ。

ミルは、その日、ずっと満足そうだった。
いや、その日どころか、それからしばらくずっと..

やはり、ミルは、少し不安だったのだろう。
それで、私を試したのだろう。

{ねえ、私のこと、もう、いらなくなっちゃったの?}

{私がいなくなったら、助かるの?}


バカな質問だ。
そんなはずがない。

ミルは、私の中では、いなくてはならない存在なのに。

必死に探す私の姿を、どこかで見ていたのだろう。

ミルは、確信してご満悦だ。

はぁ。私は、履歴書の清書を、あれから、何回もした。

手書きは、パソコンに慣れているせいか、なかなか間違いなく書くことが、難しかったからだ。

それに加えて集中力が、完全に切れていた。

履歴書を完成したときには、ミルのご満悦な姿と対称に、私は、げっそり疲れきっていた。

おかげで、次の日の朝に撮った履歴書用の写真は、目の下にはくま、頬はこけて、疲れきった感じ満載だった。

{ああ、この写真は、やばいな。書類審査で、落ちること確実だ。}

まあ、いっか。

私は、その写真を履歴書に貼り、簡易書留で郵送した。

まあ、記念にはなるな。

せっかく、あれだけ、苦労して書いた履歴書なんだから、記念に送っとこう。

少しは、中を読んでくれたらいいな。

でも、あの写真じゃね。
すぐ、ゴミ箱行きかもね。

私は、可笑しくて、ひとり笑う。