ミュウと日向の物語

【ミュウと日向の大学時代の物語】と【輝の行政書士試験に受かるまでの奮闘記】です。他の物語も書いていきます。🐈

日向の大学生活-黒猫さん-

↑カテゴリー別のタイトルで、編集しました。【日向の大学生活】をクリックすると、ひなたの大学生活の話だけが、出ます。🐈






私は、なかなか運転が上手い。教習所の鬼教官のお墨付きだ。
大学2年生の本学にいるときに、免許を取った。自動車学校の私の担当教官は、鬼教官と呼ばれている白髪の小柄なおじいちゃん先生だった。
教習所のコースの練習中で、カーブを曲がるときに、じいちゃん先生が、「ギア落として!あ、ちょっと遅かったな。今さら無理だな。」
当時は、みんなミッション車【MT車】での試験が当たり前だった。
私は、素早くクラッチを踏んでシフトを変える。じいちゃん先生が「女にしとくのは、もったいないな。」と感心しながら言う。
仮免を取って、道路で練習しているときも、じいちゃん先生は「君は安心だからな。」と助手席であぐらをかいて座っていた。教習所の車には、助手席側にもブレーキが付いている。安全のためだ。
横に自転車が走っていて危ないから中央線をはみ出して、自転車を抜かす。
「あ、何やってるんだ!追い越し禁止の黄色い線だろ?」だって、危ないし遅いから。「まったく。一応練習中なんだから、ルールは守ってくれよ。」じいちゃん先生が苦笑いする。
それは、お互いさまだと思うのだが...
卒業の時に、じいちゃん先生は、いっぱい誉めて喜んでくれた。

そういえば、ふくちゃんも同じ教習所に通っていた。ふくちゃんは、身長が180cmあって、ちょっとふくよかで、丸い可愛い顔の農学部の同級生だ。料理が上手で、包容力があって、母性愛満載の女の子だ。
教習所のコースで、ふくちゃんが坂の途中で坂道発進をするのを見ていた。
ふくちゃんの車が、発進とともに坂道を後ろに下っていく。更に坂道から20m くらい後ろに進んでいく。

教習の後で、ハンカチで顔を拭きながら、ふくちゃんが「いやぁ、日向ちゃん、なかなか難しいもんじゃな。なかなか上手くいかんもんじゃ。」と楽しそうに言う。私は、苦笑いする。
結局、ふくちゃんは仮免を5回目で、本免許の試験を3回目で合格した。


中古のミニカエコノを手に入れてから、私は、山道やらいろいろな道を自然を感じながら運転するのが好きで、よく1人でドライブを楽しんでいた。
その日も大学の講義が終わってから、初夏の風を感じながら山道を走っていた。夕方ということもあり、ちょうどいい暑さだった。気持ちいいなと感じながら、次のカーブを曲がろうとしたときだった。ダッシュボードの上に置いていたジュースの空缶が下に落ちて、ちょうどブレーキの下に挟まった。カーブが近づいてくる。ヤバイ!減速出来ない!

こういうときは、返って冷静になるものだ。赤土が剥き出しになっている山肌を走らせてカーブでの減速を試みる。減速はしたが、山肌を少し斜め上に走らせたので、ふわっと車の右横から落ちていく。スポッ!
スポッ??ちょうど山肌と道路の幅の広い溝に車が斜め右横から挟まっていた。え??
ドアが溝に挟まって出れないので、窓を開けて小さい持ち物カバンを持って外に出る。
衝撃が何故か無かったので、車に傷もないようだ。止まっている車の先を見る。10m先で岩肌が途切れていて、下を見ると崖になっていた。
もう少しで私は、ミニカエコノとともに奈落の底に落ちるところだった。
やばかったなと思いながら、さて、どうしようと考える。
山だから、電話もないし、近くに民家もない。車は、挟まってるし...
困ったなと佇んでいると、反対車線で軽トラが停まって、男の人が駆け寄っ
てくる。「大丈夫ですか?怪我は?」
あ、大丈夫です。ただ、車が挟まってて...「なるほど、分かりました。」男の人は、携帯で電話をかけて何やら必至に真剣に話している。しばらくして「知り合いの整備会社に連絡して、車を引き上げて、診てから戻すように話しましたんで、大丈夫ですよ。」え?そんなことまで、ご親切にしていただいて、すみません。助かります。
「さぁ、家まで送っていきますよ。車は大丈夫ですから、安心してください。」え?そんなことまで?
ほんとにありがとうございます。
軽トラで送ってもらいながら、さすがに、いくら親切な人でもここまでしてくれるのだろうか?と不思議に思った私は訊いてみた。「あの、こんなに親切にしていただいていて訊くのは失礼なんですけど、何で、ここまで、してくださるんですか?」男の人は真剣な顔をして言う。「実は、昨日の夜、ちょうど、あなたの車が挟まっていた場所の道路で、黒猫をひいてしまったんです。それから、ずっと気にやんでましてね。今日通りかかったときに、あなたが困っているのを見て、挽回のチャンスだと思ったんです。これで許してもらえると。」私は、絶句した。

後日、ミニカエコノは無事に戻ってきた。あまりにびっくりしていて、男の人の名前も何も訊いていなかった。
整備会社の人に、お代を!と言っても、「もうもらってますし、連絡先も教えるなと言われてますんで。」


忘れることの出来ない夏の出来事だった。
見たこともないその黒猫さんは、私の命の恩人だ。
一生、感謝する。