ミュウと日向の物語

【ミュウと日向の大学時代の物語】と【輝の行政書士試験に受かるまでの奮闘記】です。他の物語も書いていきます。🐈

輝の猫~ミルとの出会い7~

↑カテゴリー別のタイトルで、編集しました。【輝とミルのこと】をクリックすると、ミルの物語だけが、出ます。🐈






毛も生えて安心して眠れるようになったミル

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月曜日から金曜日は、長かった。
急に容態が悪化しないか、常に心配だった。
仕事も、集中して出来なかった。(←まあ、いつもそんなに集中して、やってないけど....)

眠るときは、朝まで大丈夫か心配で、なかなか眠れなかった。

吐くのは、また少し回数は減ったけれど、やはり、まだ吐いた。

金曜日は、会社を休んで病院に行きたい気持ちで、いっぱいだったけれど、あの無神経所長が、理解してくれないのは分かっているし、なんか負けたくなかったので、また、会社から帰ってから行くことにした。

「じゃあ、お母さん、行ってくるから、ミルの便を取って用意しといてね。」と言って、ミルの頭を優しく撫でて、出かける。

ミルの便は、ずっと見ているけど、虫が混じっているようには見えない。
もっと小さいミクロレベルなのかな。

会社では、所長は、猫のことは、もう、すっかり記憶にもないので、敢えて私も何も言わない。

{いつか、バチが当たればいいのに。子供がいなくなるかも知れない気持ちが分かるように。}と思ってしまう。

思いは通じる。
気をつけなければならない。


今、コロナのこの時期に、所長の息子は、ミャンマーにいて帰れない。
タイに行けないらしい。
本人は、帰りたくないらしいのだが...

私に、事あるごとに相談するが、私に何とか出来るはずがない。

この一ヶ月以上前に、「もう、タイを出国出来なくなりますよ。本当に息子さんに、ミャンマーでいる覚悟なのか聞いてみてください。帰りたくなったときに、帰れなくなってもいいのか?ミャンマーは、まだ、実質、軍事国家みたいなもんですよ。もう、最終です。来週には、もう出れなくなるかもしれませんよ。」って、見るに見かねて最終忠告したのに....

「25の男なんやから、自分のことは、自分で決められるやろう。それに、ミャンマーのほうが、日本より安全らしいわ。」と、聞く耳を持たなかった。

何故か、息子の言うことは、絶対に正しいと、信じている。

今でも、「ミャンマーは、温度と湿度が高いから、コロナは感染しにくいらしいわ。だから、安心らしいわ。日本の方が、よっぽど危ないらしいわ。」という息子の理論に、私に同意を求めようとする。

はっきり言って、そんな化学的根拠のない話に、同意をする気は全く無いし、今まで、その息子が言って、その決定に従って失敗したことを、過去少なくとも五個は、知っている。

でも、親が息子の言うことを信じるのは、いいことなのかもしれないし、親子でしか分からない何かがあるのかもしれない。たとえ、それが客観的に見て99%間違ったことでも。

うん、最終判断は、その親子の問題だ。私が関与するのは、お門違いだ。


いつもより長く感じる苦痛の1日の仕事をやっと終えて、家に急いで帰る。

ミルの便は、用意されていた。
「夕方の新しいのを取っておいたわ。」と、自慢気に言うお母さんとキャリーバッグに入ったミルを車に乗せて、病院に急ぐ。

今日も、7時半に着いた。

待ち構えていた山崎さんに、ミルの様子を詳しく話す。山崎さんは一言一句逃さないように問診票に詳しく書いて、「お待ちくださいね。」と安心させるように、優しく言ってくれる。

しばらく、落ち着かない気持ちで、待合室で、大人しく待つ。

今日は、ちょっと混んでいるようだ。

最後になって、院長先生が呼んだので、診察室に急いで入る。

今日は、珍しくミルが、すんなりキャリーバッグから出てきたので、すぐに診察台に置く。

先生が、「どうでしたか?」と心配そうに聞くので、ミルの状況を詳しく説明する。

体重を計ると、680gだ。
微妙に増えてはいるんだけれど。

先生は、カルテと問診票を見ながら、「便は、持ってきましたか?」と、尋ねるので、渡す。

先生が、奥のほうに行って、顕微鏡みたいなもので、調べている。画像が、おっきい画面に映っている。
最新だなと、変に感心する。

「おい、藤堂!マンソンだ。やっぱりマンソンがいるよ!」と嬉しそうに藤堂先生を呼んで見せている。
藤堂先生も嬉しそうに、見ている。

しばらくして、院長が戻ってきて、
「マンソンがいました。この虫は、カエルや蛇を媒介しないと、入らないものなので、滅多にかからないものなんですが、たまに見られます。」と説明して、マンソンが載っている資料を見せてくれる。

~マンソン裂頭条虫~

マンソン裂頭条虫は瓜実条虫と違って、検便で初めて感染を確定できる。虫体は、きし麺のような形で、長さは2m を超えることもあります。感染すると、下痢や嘔吐の原因になります。

一通り読んで、院長を見ると、
「胃の中で、2m の虫が暴れてたら、そりゃあ気持ち悪くて、吐きますよ。しかも、そいつが、この子の栄養を代わりに取っているんだから、食べても太らないわけです。」と説明する。

「マンソンは、カエルや蛇を媒介しないと感染しませんから、なかなか無いんですけどね。。」と、繰り返し不思議そうに言う。

「家の周りに田んぼが、たくさん有ります。6月は、水田のおたまじゃくしが、カエルに成長していくから、7月だと、小さいカエルが、いっぱいいたと思います。ミルは、お腹がすいて、小さいカエルを必死に捕まえて食べていたんでしょう。」と、ミルの頭を優しく撫でながら答える。

{かわいそうに。そんなに食べるのに
必死だったのか...}

先生は、納得してうなずいて、
「原因は分かったので、マンソンを除去すれば、いいわけです。」と、嬉しそうに言う。

「そうですね。早速、その薬を打ってください。」と、私も嬉しくなって、笑顔で答える。


また、院長が、ピタッと躊躇する。

私が、ちょっとウンザリして
「また、何か問題でも?」と聞く。

院長が、ためらいがちに言う。
「マンソンは、かなりしつこい寄生虫なんです。つまり、薬の投与量が、普通の虫下しの数倍になりますし、強くもなります。ですから、この子の体力がもってくれるか....」

私は、無言で、ミルの顔を見る。

{いけそうか?}

ミルは、顔を上げて、私を見つめる。

{ええ、大丈夫です。}


私は、院長に、「打ってください。」と、静かに言う。

院長は、びっくりした顔をして、
「ちょっと、待っててください。」と奥に行く。

藤堂先生と相談しているようだ。

かなり経ってから、院長が、注射の準備をして、戻ってきた。

「薬の種類と量を決めてきました。これが、最善になります。いいですか?」と、静かに聞く。

私は、「お願いします。」と言って、
ミルの体をそっとおさえる。

ミルは、静かにじっとしている。

院長が、ゆっくりと注射する。

しばらく、様子を見る。

大丈夫そうだ。


安心して、みんなでホッとする。

「一週間後、便をもって、また来てください。マンソンが、残っていないか、確認します。あと、室内飼いしてくださいね。また、なりますから。」
と、院長が笑う。

私も「もちろんです。」と、笑顔で答える。

帰りは、院長、藤堂先生、山崎さんが、揃って見送ってくれた。

私とお母さんは、何度も何度もお礼を言って、病院を後にした。


その次の日から、ミルは吐かなくなった。お腹がポンポコリンになるまで食べて、幸せそうに眠るようになった。


次の金曜日は、病院に行くのは楽しみだった。
案の定、ミルに、もう虫はいなかった。体重も800gになっていた。

みんなで喜びあった。


それから、病院には、3種混合ワクチンの注射を受けに、年に一回しか行かなくなった。

血液検査を一回受けたけれど、猫エイズ白血病も陰性で、何も問題なかった。
藤堂先生が、「病院なんて、来ない方がいいんだから。」と優しく笑ってくれた。
院長先生は、避妊手術のときに、ミルにメロメロになったみたいで、
「そうだな。」と、ちょっと寂しそうだった。


それから、ミルは、すくすく成長して、今では、体重4.8kgになった。
ただ、あんな状態だったので、怒ることが出来ず、しつけに失敗した。

噛み癖が、直らない。私には、噛まないものの、お母さんを追いかけて噛むことがある。
お母さんは、「痛い!痛い!」と、逃げ惑うことが、たびたびある。

御飯も、好きなときに、ちょっとずつ、1日六回、ゆっくり食べる。

猫用オモチャは、いっぱいで、好きなだけ、遊ばせてしまう。

甘やかし放題の内弁慶に、育ってしまった。


でも、来年の6月にミルの一人天下は、突然、終わることになる。

ミルのライバル “ ココ ” が、登場することによって。


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