ミュウと日向の物語

【ミュウと日向の大学時代の物語】と【輝の行政書士試験に受かるまでの奮闘記】です。他の物語も書いていきます。🐈

輝の研究のお仕事16

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↑一緒に眠るミルとココ


某メーカーの依頼品、マグネシウム入りの液体肥料の商品開発の幕は、切って落とされた。

材料は決まっているし、分量も決まっている。
あとは、作り方だ。

いつものように、頭にたくさんの試作のアイデアが降りてくる。
たくさんのアイデアの中から、的を絞っていかなければならない。

とりあえず、作っていこう。
今まで通りの順番では、ダメなのは分かっているが、どんな感じでダメなのか分からないから、見ていこう。

歴代の処方で作っていく。
ふんふん、このやり方だと、この時点で、試薬が混ざらなくなるのか..
すると、あれだな。次の処方で、見てみよう。

私は、次々作成し、特徴を頭にインプットしていく。

1ヶ月以内には、完成品を作らないといけない。

試行錯誤を続ける日々が続く。

光の一点のゴールに向かって、絞っていく。

いらない処方は、捨てていく。
頭に残った候補だけを作っていく。
この中に正解があることだけは、直感で分かっている。
必ず出来ると分かっている。

光が、私を導く。

ある日、私が、いつものように試作品を作成していると、この仕事を取ってきた本社の営業が、様子を見に研究室にやってきた。

研究室に来るなり、彼は私に、
「大丈夫なんですか?間に合いますよね。出来ないじゃ、すまないんですよ。」と、攻撃してきた。

うるさい男だ。
無茶な仕事をとってきておいて、攻撃してくるとは...
お願いしますの一言も言えないのか。

「出来ますよ。」と、私は、冷たく言い放つ。

それでも、彼、岩崎という30代前半くらいの性格の悪そうな男は、私の試作品作りに付きまとう。

邪魔だ。気が散る。
そう思いながら、頭に浮かぶ試作品を作り続ける。

ある程度作成した中身の入った2Lのビーカーを温めながら拡販して、次の試薬を入れる。
入れた途端に、混合が解けて、一気に大量の粒が現れる。

失敗だ。これじゃない。

途端に、岩崎がわめき出す。

「本当に大丈夫なんですか!こんな状態で!間に合うんですか!」

私は、失敗したビーカーの中身を無造作に捨て、岩崎を睨みながら、

「うるさい!間に合わせたいと思うなら私の邪魔をしないで!必ず出来るから、私に余計な時間を使わさないで。時間がないから集中して作りたいんだから、邪魔するなら帰って!」と、
ピシャリと言い放つ。

岩崎は、10歳以上も年下の小娘に怒られて、唖然とする。

田島部長が、そっと岩崎に近づいて、
「岩崎君、ほら、ここは花田さんに任せておきましょう。静かに作らせてあげましょう。彼女は、研究のときは夢中になってしまいますからな。」と、囁きながら岩崎を事務所の方に引き連れていく。

岩崎が田島部長と研究室から出ていく
のを見届けて、私は次の試作を頭に浮かべ始める。

この時点で、粒に戻るということは、つまり、こっちの試薬が先だということだ。
あとは、温めるタイミングが違うんだな。
温度も少し違うな。
試作でなく、工場で作るには、もうちょっとゆとりも必要だな。

あらゆる分析結果と残りの試作品候補を頭に思い浮かべながら、近づいてきた光の一点に進む。

光が強くなる。
ゴールは、間近だ!

私は、目の前に現れた光のゴールを見て、微笑む。


ほどなくして、完成品は出来上がった。

工場長に処方を渡し、製品テストも始まった。
同時に耐久テスト等も始める。

問題はなさそうで、私は、商品を期限内に完成させた。

岩崎が、某メーカーに渡すサンプル品を取りに、再び研究室にやってきた。

岩崎は、前とは、うって変わって、
「商品を完成させてくれて、ありがとう。絶対にいっぱい売るよ。」と、頭を下げながら殊勝に言う。

「あ...この前は、偉そうなことを言ってすみませんでした。」と、研究をしていない私は、素に戻って素直に謝る。

岩崎さんは、
「田島部長の言う通り、研究から離れるとガラッと変わるんだな。」と、フッと笑いながら、

「いや、いいんだ。俺も悪かったんだ。分かってるんだ。奥さんにも、そういうことで、泣かしたことがあるんだ。」と、ポツリと話し出す。

あとから聞いた話だが、岩崎さんは、本社で事務で働いている奥さまと結婚している。

奥さまは、難病指定のご病気を煩っているらしいが、それを承知で結婚したと聞いた。

意外と優しい人だったんだなと思った。

「俺は、言い争いになると退けなくなるタイプみたいで、言い負かせるまで続けてしまうんだ。奥さんとも口論が始まると、言い負かすまで止めないんだ。でも、あとで、奥さんが泣いてるのを見て、俺が悪かったんだなと心底反省するんだ。」と、しみじみ話す。

私は、{そりゃあ、あんたが悪いよ。}と思いながら見つめていると、

「いやあ、でも、君みたいにあんなにピシャリとやられると、言い返せなくなるもんだね。全く、反論出来なかったよ。」と、岩崎さんは笑い出す。

それを見て、私も笑い出す。

しばらく、2人で商品のことやいろんなことをさんざん話してから、
「じゃあ、また、何かあったら頼むよ。」と、岩崎さんは、笑顔で去っていく。


私は、
{奥さまに、私に言ったセリフを素直に伝えればいいのにな..}と思いながら、去っていく岩崎さんを静かに見送る。



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